アンティークジュエリーの知識について(特にフランスのアンティークジュエリーについて)、日本では眉唾ものなことが時々、公然と紹介されていることがあります。

これはおそらく、日本でアンティークジュエリーをご紹介する方が、イギリスのアンティークを中心に学ばれていて、そこに知識が偏っているということもあるのかなと思っています。
お国が違えば異なることも多いのか!?あるいは単なるミスなのか?
本当のところ原因はよく分からないのですが、間違っていることが書かれていることはよくあります。

また現地のディーラーさんでも正確な知識を持っている人は極一握りで、知識と言う意味ではかなり適当な方も実は多いです。
知識が適当でも良いものを持っているディーラーさんもいて(代々アンティーク屋さんをやっていたりして自然に良いものも入るルートがある等)、そこは使い分けることが必要なのだと私もつねづね思っています。
そして現地で何か聞いても、必ず文献等で確認し、聞いたことが事実なのかを具体例を共に検証していくことが必要です。
ちなみに文献は日本の専門書より、英仏の信頼できる文献等ですることが重要です。
ジュエリー専門のオークション会社が出した出品リストも本として売られているものがありも、必ずエキスパートがその名前に責任を持ち監修しているので良い文献となります。

さて今回はお客様からのお問い合わせから知ったことなのですが・・・。

「アンティークジュエリーでホワイトゴールドが作られたのは1920年代以降。」
とおっしゃる日本人ディーラーさんがいるのですが・・・いうぎょっとする情報でした。



これ大きな間違いですよ!!!
少なくともフランスのアンティークジュエリーでは、ホワイトゴールドは1870年代から存在します。
「d$00E8s la seconde moiti$00E9 du XIX$00E8me si$00E8cle」と表現されることが多いです。
フランス語らしい表現で直訳すると「19世紀後半を半分にしたうちの2回目にはいっていからすぐ」という意味になります。
19世紀を半分にして、その更に半分の2回目、つまり1975年あたりを指します。

アンティークジュエリーに使われているホワイトゴールドについてまとめのページを作りました。
是非ご拝読ください。

特に1900年頃までのゴールドジュエリーでは、イエローゴールドベースのジュエリーに部分的にホワイトの地金が入っている場合、それはプラチナではなくホワイトゴールドが用いられていることが多いです。
例えば下記のような指輪は典型的な例です。
ダイヤモンド周りはホワイトゴールド(グレイゴールド)です。

j00904-6.jpg


フランスのアンティークジュエリーでも1910年以降のものは、こうした部分にプラチナを用いたものもあります(ホワイトゴールドのものも両方あります)。
刻印はメインの刻印(つまり上記の指輪であるとメインの地金は18金イエローゴールドになります)に押されることが多く、それがこうした「部分的に使われた白い金属」の特定を難しくしている要因でもあります。
*ゴールドとプラチナの刻印が両方押されるケースも多いのですが、そもそもプラチナの刻印が1910年代にようやく作られるので1910年代まではゴールドのジュエリーの表面などにプラチナが使われていても、ゴールドの刻印だけが押されるケースが多いです。

ちなみに「プラチナが用いられている=高級」ということではありません。
ホワイトゴールドとプラチナのアンティークジュエリーの違いは、美しさやクオリティーの良し悪しにあるのではありません。
あえて言うなら「希少さ」です。
またプラチナは一般的に1920-1930年頃のジュエリーからよく見られるようになりますが、早くは1870年代(第二帝政期)から見られます。
アンティークジュエリーは例外が多くあり。
「1920-1930年のジュエリーで白い地金=絶対プラチナ」ということもないですし、「1870年代のジュエリーで白い地金=絶対にホワイトゴールド」ということもありません。
20世紀に入り加工技術が進み、新しい鉱山の発見もあり、多く流通するようになったということです。

さてホワイトゴールドに関してもう一つ重要な誤りが一部で流布しているようです。

「アールデコのジュエリーでよいものは必ずプラチナでできている、ホワイトゴールドでできたものは二流品、あるいはフェイクアンティーク」


間違いです。
良質のアンティークジュエリーはホワイトゴールドはもちろんのこと、何と銀でも作られています。
有名どころではブシュロンやモープッサンもホワイトゴールドの秀逸なアールデコのジュエリーを残していますし、ジャン・デプレは銀xイエローゴールドで大胆かつ秀逸な作品を残しています。

私の所蔵するフランスのアールデコジュエリーについて書かれた本(現地でも有名なもので書店でもよく見ます)をパラパラっと見ただけで、非常に数多くの秀逸なホワイトゴールドのアールデコのジュエリーが作られていることが分かります。
そこには多くのグランメゾンのジュエリーも含みます
フランス語ではありますが、年代もしっかり記載されていますし良い事例です。

boucheron.jpg

上記はブシュロンのアールデコのジュエリー。
白い金属部分はホワイトゴールドであることが明記されています。


上記のようなことを聞くとフランスアンティークジュエリーを愛する者として純粋に哀しくなってしまいます。
誰かを責めているわけではありません。
人は一度思い込むと、それがベースとなるところはあると思いますし、誰でも間違えることはあります。
ただネットの力ってすごくて、うっかり過去に間違えて書いたものがそのまま多くの人の目に触れることなどもありますね。
私も過ちをしないわけではないですし、改めて実証を重ねる重要性を感じますし、身が引き締まる思いです。


あとやはり何といいますかお喋りって大事ですね!
今回もそのようなことを聞いてすぐに文献で具体例を探すと共に、現地の私が知識面では最も信頼しているディーラーさんに連絡!

フランスが朝になるなり彼女から返答がきて、やはり彼女の方でも具体例で良さそうなものがないか見てくれるとのこと、愛を感じます。
ちなみに彼女とはそれ以外の話でももりあがり、GWに予定している催事に合わせて彼女のところから新着のジュエリーをいくつかご紹介できそうです。



仕入れの現場でも、アンティークジュエリーの購入を決めて決済して終わりみたいなことではなく、私は催事場などでなければその場で色々話し込むことが多いです、時には何時間も。
買うとか買わないとか、いくらお金を落としていくか否かではなく、フランスのディーラーさんは特に人間関係の上になりたっているところがあるので、そうした意味では信頼してもらえると非常によくしてくれるところがあります。
最後はその人の人間性にいきつくのでしょう。
私もアンティークジュエリーは良い人から(人柄的にも)買うようにしています。
やはりご縁のものだと思うからです。